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冬野由記
冬野由記
標高と緯度の高いところを志向する癖があります。そんなわけで、北国でのアウトドアや旅が好きになってしまいました。
旅の印象を絵にしたり、興が乗れば旅に携帯した笛を吹いたりすることもあります。

2008年03月03日

朗読絶句事件

 二週間のごぶさたでした。
 怒涛のような二週間でした。
 帰って、夕食を済ますと、バタン・キューというような日々が続きました。
 最後の考査が終わると、一年間の成績評定・・・これが、気苦労の多い作業なのです。
 そして、入試の対応(これはまだ終わってない)
 来年度の授業内容の設定(いわゆるシラバスというヤツです。これはやっと終わった)
 そして、今日は卒業式でした。
 なんとか、一段落です。

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 先日、授業で、宮沢賢治を扱いました。教材は『なめとこ山の熊』です。
 その最後に、意を決して、賢治の詩を・・・彼は「詩」と呼ばれることを嫌っていたようですが・・・朗読したのです。
 いや、朗読を試みた、というべきでしょう。
 『意を決して』と書きました。
 意を決して始めないと、朗読できないのです。

 そして、やはり、それは起きてしまいました。
 一分ほど読み進んだところで、ぼくは、不覚にも絶句してしまったのです。

    この雪はどこをえらぼうにも
    あんまりどこもまっしろなのだ

 この二行がとどめでした。
 この二行を前に、ぼくは絶句し、もう一歩も先へは進めなくなってしまった。

 「ごめん。やっぱり読めないや」
 こう告げてうつむいてしまったぼくを見て、生徒たちは、何事が起きたのかといぶかったことでしょう。
 こうなると、もういけない。
 最後の最後に、賢治が晩年をすごした小屋の前の黒板にチョークで書きのこされていた文字
 「下ノ 畑ニ 居リマス」
 を紹介して、
 この文字が、今も彼の母校の生徒たちによって、かすれてくるとチョークでなぞって上書きされて、今も残っているのだと、
 そんな説明をしたところで、また絶句。
 「賢治とは、そういう人です」
 こういうのが精いっぱい。そこでチャイムに救われました。

 まいったなあ。泣き虫がこんなところで顔を出してしまった。

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 その後のエピソード(うれしかったのでまた涙ぐんでしまった話)

 授業のあと、職員室に急ぐぼくの後をかけて追いかけてくる生徒がいました。
 「センセー」
 「なに?」
 「国語ができるようになるには、どうしたらいいですか?」
 「そうだね。まず、本をいろいろ読むことだね。毎日とは言わないけど、月に一冊とか、二週間に一冊とかでも。どんな本を読むの?」
 「読んだことがないから、わからないんです」
 「じゃ・・・ぼくが何冊かみつくろってくるから、それを読みなよ」
 「はい」
 私語もやまず、何かとすねたような反抗的な態度を見せる生徒だったのですが、こんな謙虚な様子を見せたのは初めてでした。どういう心境の変化かはわからないけれど、素敵なことです。
 二日後、彼女に3冊の文庫本を贈りました。
 ―― どんな本なら読んでくれるんだろう
 と、ずいぶん悩んだのですが、結局、ぼくが面白いと思った本で、彼女に読んでもらいたいと思った本を選びました。
 彼女の口に合うかどうかはわかりませんけど。
 その日のお昼、廊下ですれ違った彼女が、
 「ありがとうございました」
 と言ったとき、ぼくは、また泣きそうになってしまいました。
 このところ、涙もろくなっているようです。
 季節の所為でしょうか。

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 その後のエピソード(情けなくて大笑いしてしまった話)

 事件(絶句事件)の放課後、ある部活の部室を訪問したぼくに、ある生徒が
 「センセイ、今日、授業で泣いたでしょ」
 「あ? ああ、泣いちゃったねえ」
 「なんで泣いたんですか?」
 「なんでって、朗読してたら・・・」
 「今、あの本、持ってますか? みせてくださいよ」
 「なんで?」
 「なんで泣いたか、わからなかったんですよ」
 ぼくは、その詩(いや、心象スケッチと賢治は言ってます)を見せたのですが、
 「何が書いてあるのかわからない」
 と言うのです。
 そこで、詩をなぞってまた泣いてもまずいので、かいつまんで説明しました。
 「ええっ? 妹、死んじゃうんですか?」
 「だって、ほら、ここ、それからここ、みればわかるでしょうが」
 「そんな気はしたけど、わけわからない言葉がいっぱいで、これなんかどういう意味なんですか? 呪文みたいで」
 「これは、朗読の前に板書して説明したじゃないか。方言だからきっと意味がわからないだろうからって」
 「ええっ? 聞いてませんよお」
 ああ。
 ぼくが絶句したことはわかっても、なぜ絶句したかは、とうとう彼女にはわからなかったらしい。
 彼女と、ぼくと、同席していた上級生(この彼女は、授業でこの詩にすでに出会っているのです)は、思わず、爆笑してしまったのでした。

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 それにしても、
 『永訣の朝』は、かならず教科書に載っているほどのお馴染みの詩だけれども、
 ぼくは、これを最後まで朗読できる人がいるということが、
 いまだに信じられないのです。

    おまえがたべるこのふたわんのゆきに
    わたくしはいまこころからいのる
    どうかこれが天上のアイスクリームになって
    おまえとみんなとに聖い資糧をもたらすように
    わたくしのすべてのさいわいをかけてねがう

 この最後のくだりにいたる、その前に、いつだって、
 賢治の言葉たちは、ぼくから声を奪い去ってしまうのですから。

(注:引用した『永訣の朝』は、仮名遣いを現代仮名遣いに改めています)

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Posted by 冬野由記 at 23:22│Comments(11)徒然なるままに
この記事へのコメント
冬野さま

宮沢賢治のふるさと花巻が、新婚旅行先でした。
賢治の生き方、優しさ・まっすぐさ「あらゆるものを自分を勘定に入れない」という思想。

そして、妹への愛情。

この文章でもう、だめです。
「雨にも負けず~」の色紙をズーと掛けています。
近頃ものの持ちすぎで、賢治に申し訳ないです。

冬野さんは、泣き虫ですか。同じですね。
私はなきたくなると、トイレか、プールの中に沈みます。
Posted by suka(スカーリング) at 2008年03月04日 00:34
ブログが全然更新されていなかったので。
心配しておりましたです^^;

多忙だったようですね。
病気とかじゃなくて良かった(涙)
Posted by こーぢ at 2008年03月04日 20:21
んふぅ~~~~。(T.T)
初めて目にしました。

あたしは、知らない事がいっぱいあります・・・・。

これからも、知りたいことを生徒さんと伴に、学びたいです。
Posted by じゃらし at 2008年03月04日 23:12
すみません。
またかのスカです。

「~トイレか、プールに沈みます」は・・・
「トイレに逃げ込むか、プールの中に沈みます」ということです。

*若者たちの春よ~来い!*
Posted by suka(スカーリング) at 2008年03月05日 05:37
元来武闘派なもので、文学には全く縁がありませんでした。
冬野さんのエントリー拝見して、今更ながら一度は熟読しておくべきと
実感しました。
Posted by masayan1101 at 2008年03月06日 23:22
冬野由記さまへ

私もこの冬野先生の記事を読ませていただいて
胸が熱くなってしまいました。
冬野さんのような先生に国語を習いたかったです。
私は答がたくさんある国語より、答がスパッと一つの算数の方が好きでした。
若いうちにもっとたくさん本を読んでいれば・・・と今頃になって
反省しています。

私も子供が小さい頃、『野口英生』の物語を読み聞かせていて
やはり泣いてしまい、最後まで読めなかったことがありました。
今でも息子は一緒に泣いたことを覚えているそうです。

冬野先生の生徒さんもキット一生忘れることが出来ない
心に残る授業だったと思います。
Posted by Yume at 2008年03月07日 16:28
お久です。まだ生きてます。

まだまだ動けるほど時間も余裕もありませんが、またゆっくり読ませてもらいますね(^^; 

冬野さんに指導してもらっていた部分が、ずっと宙ぶらりんで時間が止まってます。時計を動かすのはやっぱり私なのかもしれませんが、まだまだこちらが落ち着いてないので。


そうですか・・・卒業式ですか。私は卒業式の司会が嫌でした(笑)。
Posted by ayappi at 2008年03月08日 10:52
冬野様

こんばんは。お久しぶりでコメントいたします。
冬野さんの記事を読んで久々に「永訣の朝」を読みました。

私も高校時代に「永訣の朝」を授業で知り、
心を強く揺すぶられた一人です。

当時から本は好きで、賢治の物語もいくつかは読んで知っていたのですが、
作者のもつ背景にまで考え及ばずにいました。

そんな時、出会った「永訣の朝」に”がーん!”とやられてしまったのです。
岩手の方言で書かれていますが、
なまりの感じは、函館なまりと似ている部分があるので、

ora orade shitori egumo や
うまれで くるたて
こんどは こたに わりやの ごとばかりで
くるしまなあよに うまれてくる

の部分のニュアンスが響いてきて、
当時、読んだ夏目漱石の「心」や太宰の「人間失格」のような
人間の中にある暗の部分に通じる思いを感じたのでした。

今改めて読み返すと
高校生の時に感じ取れなかったことを
今、感じられるようになったんだと思いました。
それは、歳をとって大切な人やモノを失ったり、
自分にはどうしようもできない様々な問題にぶつかってきたことに
関係があると思います。
今更ですが、この詩の深さを感じます。

きっと、冬野さんの教え子さんや
今時の子どもには、わからないのかもしれませんね。
言葉を理解する力が足りないということもあるのでしょうが、
たとえ言葉の意味を理解できても、
彼らの辛いとか苦しいということの原因が
何か違う気がします。

でも今は、よくわからなくても、いつか、
この詩のやるせなさがわかる日が来ると思いますよ。
Posted by Q吉 at 2008年03月09日 21:17
皆様、コメントありがとうございます。

suka様

 もうだいぶ前、たまたま賢治生誕100年記念の年に、東北旅行をしたとき、花巻の賢治記念館に立ち寄ったのが、賢治再発見の出会いとなりました。
 それ以来、賢治は、私にとってもっとも大切な作家(という肩書きがそぐわない人ですが)です。

こーじ様

 年度末でなかなか落ち着けない日々を過ごしています。
 ネットも、書くほうは、もうしばらく停車中といった感じです。

じゃらし様

 賢治は、一生の間に、どこかで行き逢うべき人だと感じています。
 告白すると、高校のときは、ぴんと来なかった人でもあります。
 おりにふれ、再発見する、そんな人のような気がします。
 たとえば「グスコーブドリの伝記」(これは晩年の傑作です。ぜひご一読を)という物語では、
 主人公が、飛行船で土壌改良剤を播いたり、炭酸ガスによる温室効果を利用して、寒冷化(冷害)による飢饉から世界を救おうと、火山の安全な人為的爆発を計画したりします。
 100年前に炭酸ガスの温室効果のことを知っていて、それを利用した気候制御を夢想するなんて。
 発想は今と逆ですが、農民の暮らしの改善や農業技術の啓蒙に全力を注いだ彼らしい発想です。
 とくに妹の死以後の彼は、いつも「誰かのために何ができるか」ばかり追い求めていたような気がします。

masayan様

 本を読むことは、友達をひとりずつ増やしてゆくような行為だと、年を重ねるにつけて、そんな思いを抱くようになりました。
 そのなかでも、おりにふれて会いたくなる本や作家があります。賢治はそのひとりです。
 そんな本を読んでいるとき、その本に自分も読まれているような思いにとらわれることがあります。
 本の向こうに、文字の向こうに、確かに彼がいる。
 本を読んでいて、最高の瞬間です。

Yume様

 国語、とくに現代文、その中でも小説や詩の読解は、つきつめてゆけば答えは無限にありますね。
 授業で「正解」として提示できるのは、あくまで文脈や構成を間違いなく掴んで、ただしく身体に入れてもらうことだけです。
 「作者の意図は何か」なんていうのは愚問以外の何ものでもありませんよね。
 言いたいことがひとつだけなら、作者自身に悩みや迷いがないのなら、小説や詩なんか書いたりしませんものね。

ayappi様

 お久しぶりです。
 お元気ですか?
 ネットカフェ、図書館・・・少しずつ、憩い?の場所を確保されているようで。
 再来週は終業式です。
 あと、二週間ほどで、今年度の授業が終わることになります。
 そんなこともあって、このところ涙もろくなっています。

Q吉様

 こちらこそ、ご無沙汰いたしております。
 実は、私も高校のときは賢治にぴんと来ませんでした。
 「童話作家」としては、小川未明のほうが好きで、ずいぶんと読みました。
 ずっと大人になってから賢治を再発見しました。
 ですから、生徒たちも、ずっと後になって「再発見」してくれればよいと、そんなふうに思っています。

冬野
Posted by 冬野由記 at 2008年03月09日 22:41
おはようごさいます。  今日はトリミングですね!泥まみれで 来てもらってOKです。 足の裏はチェックしますね。気になる事はどんどん聞いて下さい。
Posted by スーパーコピー腕時計 at 2013年07月12日 12:11
猛暑の中、31度以上ある教室で5時間も勉強できる大人が
どれほどいるでしょうか?おそらくすぐに音を上げるでしょう。
苦しくても暑い・苦しいと言えない子供に代わり代弁させていただきます。
Posted by ロレックスレプリカ at 2013年07月17日 18:23
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