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冬野由記
冬野由記
標高と緯度の高いところを志向する癖があります。そんなわけで、北国でのアウトドアや旅が好きになってしまいました。
旅の印象を絵にしたり、興が乗れば旅に携帯した笛を吹いたりすることもあります。

2010年01月04日

テロリスト列伝 Ⅰ『サムソン』(その10)


《サムソン その10》


 サムソンがとらわれたさらなる謎はともかくとして、強い者、食らうものとは獅子であり、甘いもの、食物とは蜜であることを、サムソンは明かしてしまった。そして、花嫁はサムソンから愛の証しを受けたにもかかわらず、恐ろしくなった。彼女はサムソンの謎かけが宴席の戯言に過ぎないと思っていた。激高したのは、恋しい人のつれない態度に不満を嵩じさせていたところに、そんな戯言程度のことで神だの長幼の序だの言い立てるので腹を立てただけだ。しかし、サムソンのかけた謎は、婚礼の座興には場違いなほど深刻なものに思える。
 まるで僧侶の説教か哲人の講義ではないか。イスラエルの人とは、そのような人々なのか? だとすると、客たちに謎を明かせばどうなるか? ペリシテ人にとってはたかが座興の種を明かす程度の事でも、イスラエルの人には禁忌を冒すほどの大事ではないのか?

 ――聞かなければよかった・・・。

 花嫁は心底そう思った。
 やがて、花婿が最後の宴席の準備のために表に出た隙に、客たちは花嫁のもとを訪れて、謎の答えを明かすよう迫った。しかし、恐れを生じた花嫁は顔を伏せたまま黙して語らない。その様子から、客たちは花嫁が答えを聞きだしたことを悟った。そして、答えを聞きだしたのに、親族に明かすこと惜しむ花嫁の態度に激高した。

「おまえはペリシテの女ではないか。イスラエルの若造に加担して、我らペリシテの者たちを侮るのか。親族が財産をむしりとられるのを、お前は笑って観ているのか。お前はイスラエルの婢(はしため)になり下がったのか。こんなことは我慢がならない。お前たちは、もはや我らの親族でも何でもない。今宵、この家に火をかけて皆殺しにしてやろうか?」

 サムソンに対する花嫁の激しさもそうだったが、激しやすく冷めやすいのはペリシテ人の気質とも言える。物言いは激しいが、彼らにしても本気で火をかけ、皆殺しにするつもりではあるまい。普段通りなら、花嫁も(うら若い良家の少女であっても)負けずに言い返していたかもしれない。海風に根差す商業民族・・・たとえば、私たちの知りうる印象で言うならば、江戸期の品川の商家や漁師町の網元の人々や、やがては彼らを率いる女将となる跡取り娘の気風を思い浮かべてみてもいい。
 しかし、この時、花嫁は不安と恐れの中にいた。彼女は、何かしら不吉な予感に苛まれていた。だから、客たちの激しさに動揺し、ついに秘密を明かしてしまった。
 そして宴会が始まった。
 宴席の中央にサムソンと花嫁がいる。七夜の忍耐を終えたサムソンが、勝ち誇ったように満面に笑みを浮かべて客たちに挨拶をおくる。

――続く――

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Posted by 冬野由記 at 02:01│Comments(0)短編小説
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