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冬野由記
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標高と緯度の高いところを志向する癖があります。そんなわけで、北国でのアウトドアや旅が好きになってしまいました。
旅の印象を絵にしたり、興が乗れば旅に携帯した笛を吹いたりすることもあります。

2010年05月02日

テロリスト列伝 Ⅰ『サムソン』(その25)

《サムソン その25》


「お言葉ですが」
 デリラは引き下がらなかった。一座がざわめく。長(おさ)は少女を見据えたまま頷いた。抗弁を遮ることはしないが、その眼は少女の思惑を量ろうとしている。少女もまた、長の眼をまっすぐに見つめながら続ける。
「お言葉ですが、今のサムソンは無敵ではありません。サムソンは、もともとイスラエルの族長たちに諮って兵を募り、私たちペリシテに戦いを挑むつもりでした。エタムに宿ったのも、かつてモーゼがこの地に侵入した道をたどり、モーゼのごとくイスラエルの民に君臨しようという意図からです。しかし、暴徒が勝手に暴れ出し、サムソンは彼らに担がれて、不本意なまま戦いを始めなければならなくなりました。サムソンは迷っています。大義を見失っています。私はサムソンの傍らにあって、彼を見てきました。今のサムソンは真の怒りを持つことができずにいます。怒りを持てぬサムソンは恐れるに足りません。サムソンを捕縛するなら、今を置いて他にありません」
 長の眼は、しばらく無言でデリラの眼を見つめた。
「お前は、何歳になる」
「十四歳です」
「おそろしい娘だな。たしかにお前は賢い。だが、まだ稚(おさな)い」
 デリラが唇に笑みをたたえて長を見つめる。
 長は思わず目を逸らし、神殿の天井に視線を移しながら答えた。
「サムソンは…イスラエル人(びと)が捕える」
 デリラが笑った。
「なるほど。たしかに仰せの通り、わたしは稚い。イスラエルの族長たちは、暴徒の首領を捕えよというペリシテの命に逆らえない。迷えるサムソンは同胞と戦えない。イスラエルはサムソンのもとで一つになるどころか、サムソンの所為で分裂する」
 長は眼を閉じた。額に刻まれた皺が動いた。
「納得したのなら、退がるがいい。サムソンは確かに捕える」
「ひとつ、お願いがございます」
「申せ」
「サムソンが捕えられたら、サムソンに会わせてください。あの者に言ってやりたいことがあります」
「よかろう」
 デリラは神殿を出た。
 ――あの娘、我らを試みようとした。
 長は、デリラとの問答を思い返しながら、なにか不吉な感に襲われた。しかし、デリラの登場によって策が変わったわけではない。長は手を振って散会を宣言した。
 兵が招集され、ペリシテ諸都市連合軍はサムソンの拠点があるエタムではなく、イスラエル人(びと)の本拠地ユダに向かって進発した。

――続く――

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Posted by 冬野由記 at 21:57│Comments(0)短編小説
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