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冬野由記
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標高と緯度の高いところを志向する癖があります。そんなわけで、北国でのアウトドアや旅が好きになってしまいました。
旅の印象を絵にしたり、興が乗れば旅に携帯した笛を吹いたりすることもあります。

2010年05月23日

テロリスト列伝 Ⅰ『サムソン』(その28)

《サムソン その28》


 イスラエル人(びと)たちに捕えられる際に、サムソンは、彼のもとに集まっていた千人の若者たちに、自ら解散を命じた。
「わたしは、捕えられたのではない。これから、同胞とともにレヒに向かうのだ。お前たちも、ユダのそれぞれの家に帰るがいい。心配することはない。お前たちも聞いただろう。神はイスラエルをお救い下さったのだ。神はイスラエルをお許しにはなっていないが、見捨てることもなさらなかった。わたしも、お前たちも、神は決してお見捨てにならない。よいか、レヒまで私の後について来ることはない。思い思いに帰るのだ」
 サムソンの晴れ晴れとした態度に、いきりたっていた若者たちは静まり、やがてそれぞれに散って行った。『暴動』は、奇妙なほどあっけなく終結した。

 三千のイスラエル軍はレヒに到着し、レヒの城(まち)を取り囲んでいるペリシテ軍にサムソンを引き渡した。ペリシテの将軍たちは、目論みどおりに、しかもあっけなく事が運んだことに安堵し、レヒの囲みを解いてガザに向かった。将軍たちの安堵が兵卒にも染みていったのだろう、道々、兵卒たちはサムソンに罵声を浴びせ続けた。
 ――獅子を引き裂いたと言うからどんな化け物かと思っていたが、身体が大きいだけの意気地無しではないか。
 ――イスラエルの英雄よ。同胞に捕えられた気分はどんなものか。
 ――お前の神は何をしている。お前を救いには来ないのか?
 ――お前は、同胞に見捨てられた。そして、神にも見捨てられた。

 レヒに向かっていたデリラは、そんな凱旋軍と行きあった。そして、将軍たちも、兵卒たちも気づいていないが、デリラには、罵詈の中でサムソンが怒りを全身に染み込ませ、蓄えていることがわかった。だが、この程度ではまだ足らない。
 ――サムソンは、このまま連行され、ガザでひと暴れするつもりだ。ガザは痛手を蒙(こうむ)るだろう。だが、ペリシテは滅ぶまい。サムソンも危難に会うだろう。死ぬかもしれない。だが、サムソンは神の大義に殉じて死ぬことに満足するだろう。
 それでは、デリラの復讐は成らない。復讐を果たすには、サムソンの怒りを――それも義(ただ)しい怒りを――もっと膨らませなければならない。義なる戦いをもっと続けさせねばならない。そして、自身は、その日が来るまでサムソンの傍らに居なければならない。
 デリラは将軍たちに、サムソンに会わせてほしいと求めた。
 ――神官の長は、神殿での会議において約束しました。サムソンが捕えられたら、サムソンに会わせると。
 デリラの神殿における言動は広く伝わっていたから、将軍たちはサムソンとの面会を許した。また、少女に面罵されるサムソンを見物するのもまた一興だと考えた。

――続く――

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Posted by 冬野由記 at 23:20│Comments(0)短編小説
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